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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)4062号 判決 1980年7月07日

原告

元島守

右訴訟代理人

三枝基行

被告

ブロードウエイ管理組合

右代表者理事長代行副理事長

竹内覚

右訴訟代理人

河崎光成

千賀修一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金六五万円及びこれに対する昭和五四年五月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1(一)  別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)は、通称「中野コープブロードウエイセンタービル」といい、建物の区分所有者等に関する法律(以下「区分所有法」という。)の適用を受ける建物である。

(二)  原告は、本件建物の区分所有者であり、被告は、本件建物の全区分所有者及び賃借人のうちの希望者を構成員として本件建物の維持・管理を行う目的で設立された民法上の組合で、区分所有法一七条に規定する本件建物の管理者である。

2  本件建物の区分所有者である訴外橋本文喜(以下「訴外人」という。)は、その所有に係る専有部分(二二〇号室)に接する本件建物の共用部分である北側外壁に対し、直径一五ないし二〇センチメートルの開口工事をした。

3  被告は、区分所有法一八条一項により、共用部分を保存する義務を負担しており、また、その組合規程でも、事業の一つとして「共用施設の保守・修理」を行うことを規定しているから、共用部分についてその原状を維持するだけでなく、原状に変更が生じた場合には、その復旧もしなければならない。したがつて、区分所有者又は第三者が共用部分を侵害しながらみずからその復旧をしないでいるときには、被告は、本件建物の管理者として、当然それらの者に対して訴訟を提起し、その侵害を排除して復旧をさせる義務を負担している。

4(一)  ところが、被告は、訴外人が前記のように開口工事をして共用部分を侵害しながらみずからその復旧をしないでいるにもかかわらず、訴外人に対して訴訟を提起してその復旧をさせる義務を怠り、これを漫然放置していたので、原告は、やむなく、区分所有法一三条一項ただし書に基づき、訴外人に対し、前記開口部分の復旧工事をすることを求めて訴訟(当庁昭和四九年(ワ)第七一三二号)を提起した。

(二)  右訴訟は、第一審では請求棄却となつたが、控訴審では請求が認容され、上告審でもその結論が維持されて上告棄却となつた。

5(一)  原告は、訴外人に対する右訴訟追行のため、訴外弁護士三枝基行を代理人に選任してその訴訟委任をし、同人に対し、その手数料として合計金五〇万円を支払つたほか、さらに、成功報酬として金一〇万円を支払うことを約した。

(二)  また、右訴訟に使用するため、訴外東都住宅興業株式会社に対して、復旧工事用図面及び見積書の作成を依頼し、その費用等として合計金五万円を支払つた。

6  原告が右のように支払い、又は支払を約した合計金六五万円は、被告が本件建物の管理者としての前記義務を履行して訴外人に対して前記開口部分の復旧工事を行うことを求めて訴訟を提起していたならば、当然要した費用である。そして、区分所有法一四条は、管理に要する費用につき各共有者がその持分に応じて負担すべきことを定めているが、この費用負担は、管理行為の個々につきその都度徴収するのではなく、一定期間における費用の見積に基づき、一定額を毎月徴収するようにしているのが一般であり、被告もそのようにして管理費を徴収しているのであるから、右訴訟に要した費用は、この管理費の中から被告が支出すべきものである。したがつて、被告は、自らの義務の履行を怠つたことによつて右支出を免れ、原告の損失で法律上の原因なくして利益を受けたというべきである。

7  よつて、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、金六五万円及び本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年五月一三日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否及び被告の主張<以下、事実省略>

理由

一請求の原因1の(一)、(二)の事実、同3のうち、被告が区分所有法一八条一項により共用部分を保存する義務を負担していること及び組合規程に原告主張の規定が存すること並びに同6のうち、区分所有法一四条に原告主張の規定が存すること及び管理費の一般的徴収方法が原告主張のとおりであり、被告もそのようにしていることは、いずれも当事者間に争いがない。

二<証拠>を総合すると、請求の原因2の事実、同4の(一)の事実のうち、原告が区分所有法一三条一項ただし書に基づき訴外人に対して開口部分の復旧工事を行うことを求めて訴訟を提起したこと、同4の(二)の事実及び同5の(一)、(二)の事実をそれぞれ認めることができる。

三そこで、被告が本件建物の管理者として訴外人に対して訴訟を提起し、その侵害を排除すべき義務を負担しているか否か、したがつて、また、原告が訴外人に対して訴訟を提起して費用の支出をしたことによつて、被告が利得したことになるのか否かについて検討する。

たしかに、管理者は共用部分を保存する義務を負担している(区分所有法一八条一項)が、その職務にあたる管理者の地位は、あくまで各区分所有者の代理人と定められているにすぎず(区分所有法一八条二項)、しかも、特に共用部分の保存行為については、区分所有者が各自これをすることができるものとされている(区分所有法一三条一項ただし書)のであるから、区分所有法一八条一項の規定は、共用部分の保存に必要な行為をその都度各区分所有者がみずから行わなければならない煩しさを避けるとともに、管理者が共用部分の管理を行う上で通常予想される保存行為については、管理者に予め代理権を付与しておくことが、管理者による管理行為を円滑に行わせ、かつ、区分所有者全員の共同の利益をはかるのに資する結果となるとの趣旨に出たものと解される。したがつて、区分所有法一八条一項によつて管理者がその義務を負担している共用部分の保存とは、共用部分の損壊・滅失を防ぎ、その原状を維持するために、損壊・滅失箇所の修繕をし、又はそのための修繕契約を締結するといつた日常的な事実的行為又は法律的行為のことをいうのであつて、区分所有者又は第三者が共用部分を侵害しながら復旧をしないでこれを放置しているときに、それらの者に対し、訴訟を提起してその侵害を排除することは、各区分所有者の権限に属し、管理者には、管理者としての立場で右行為をする権限はないというべきである。そして、原告主張の組合規程の定めも、以上に述べた区分所有法一八条一項の規定の趣旨と同旨のものと解すべきである。

さらに、共用部分を侵害している区分所有者又は第三者に対して訴訟を提起するための弁護士報酬等の費用が共用部分の保存に要する費用にあたるとしても、区分所有法一四条は、管理に要する費用は各共有者がその持分に応じて負担すべきものと定めているから、原告が右費用を全額支出したことによつて利益を受けたのは、右分担義務を負つている他の区分所有者らであるというべきである。そして、被告が原告主張のような方法で各共有者から管理費を徴収していることは当事者間に争いがないが、右管理費は、前記のような区分所有法一八条一項の予定している管理者が保存行為をするための費用として徴収されているのであるから、区分所有者が共用部分への侵害を排除するために訴訟を提起して費用を支出したとしても、集会決議又は規約の定めがない限り、右管理費の中からそれを支出することは許されないというべきである。

以上のとおり、被告は、本件建物の管理者として、訴外人に対して訴訟を提起してその侵害を排除すべき義務を負担しているわけではなく、また、被告が各区分所有者から徴収している管理費を、原告の訴外人に対する訴訟に要した費用の支出に充てることは原則として許されないから、原告が右費用を支出したことによつて、被告は何らの利得もしていないというべきである。

四よつて、原告の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(伊藤博 宮崎公男 原優)

物件目録<省略>

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